以下述べるところは、欧州連合知的財産庁(EUIPO)1に対する登録異議申立手続の概要(主要点)です。
ⅰ)異議申立期間は3ヶ月で延長はできません。
ⅱ)異議申立書には異議申立理由を明示しなければなりません。異議申立理由となり得るものは以下の通りです。
異議申立は先行権に基づき相対的拒絶理由がある場合にのみ可能です。すなわち絶対的拒絶理由(例えば標章が記述的あるいは紛らわしいという理由)による異議申立は認められません。不正は絶対的拒絶理由です。
ⅲ)異議申立人は、異議申立適格がなければなりません。適格性を有する者は次の者に限られます。
a) 先行商標の所有者および/または先使用者
異議申立が先行するEUTMに基づく場合は、異議申立人は、異議申立書が受理された日前に先行するEUTMの所有者として登録されて(または、商標の所有者である旨の登録申請を完了して)いなければなりません。
異議申立が、国内商標または"標章"に基づく場合、当該国の法律がそれら商標または"標章"に異議対象のEUTMの使用を排除する権利を与えていなければなりません。
b) 先行商標の所有者から使用を許諾されている者
EUTMの使用権者は登録される必要はありませんが、使用権者自らが適法な使用権者であることを立証しなければなりません。
国内商標の使用権者の場合は使用権者の訴訟能力は国内法の規定によります。
c) 国内法の下で、未登録商標の先使用権が認められている者
ⅳ)異議対象の出願の詳細を明確にする必要があります。
ⅴ)異議申立手数料を支払わなくてはなりません。
異議申立期間終了までに異議申立手数料が支払われない場合、その異議申立はなかったものとみなされます。そのため、異議申立を希望する場合はできるだけ異議申立期間終了前に余裕をもって指示する必要があります。
ⅵ)異議申立の根拠となる先行商標または先行権を、出願番号または登録番号、優先日、標章の態様等によって明確に表示する必要があります。
"先行商標"とは、出願日が異議対象の商標の出願日(優先権主張している場合は優先日)より前の登録済みまたは係属中の出願(ただし、登録されることが条件)です。先行商標は、次のいずれかでなければなりません。
"先行権"とは、未登録商標や、一地域を超えて取引に使用されるその他の標識のことです。
これらの最低の要件を異議申立期間終了までに満たさなかった場合、異議申立は却下されますが、納付した異議申立手数料は返還されません。
(実際は、英語での異議申立が多いのですが、他の公用語、すなわち、フランス語、ドイツ語、イタリア語またはスペイン語で行われることもあります。)
異議申立書がEUIPOにより受理されて事件番号が付されると、出願人またはその代理人に出願に対し異議申立があった旨が通知されます。
異議申立書が最低の方式要件を満たしていると判断さると、その旨両当事者に通知され、次の期限が設定されます。この通知から2ヶ月後に異議申立手続の対審段階が始まるとみなされます。これより前に、2ヶ月のクーリングオフ期間が設けられ、当事者同士の話し合いにより、対立関係に発展する前に早期に異議の決着をつけることができます。このクーリングオフ期間は、当事者双方の合意により延長できますが、延長期間の長さは当事者の希望に左右されず、自動的に合計24ヶ月まで延長されます。もし、当事者がクーリングオフ期間を終了したいと思えば、その当事者は一方的に話し合いを止めてしまうことができます。
クーリングオフ期間中出願人が出願を取下げたり、または商品または役務を限定して異議対象から外した場合、その後異議申立人が異議申立を取り下げれば、異議申立手数料は本人に返還されます。一方、出願を限定することなく異議申立がクーリングオフ期間中に取り下げられたときは、手数料は返還されません。当事者の和解に費用に関する合意が含まれ、それがEUIPOに通知された場合、EUIPOは費用に関する決定を下しません。クーリングオフ期間中に和解が成立しなかった場合、異議申立手続が開始されます
異議申立人は、EUIPOが指定した2ヶ月の間に、異議申立を支持する事実、主張、証拠のすべてを提出することができます。その後、出願人は、提出された主張および証拠に応答するために2ヶ月の答弁書提出のための期間が与えられます。
適切な証拠は、異議申立の理由によります。たとえば、広範な使用の証拠および/または先の商標の評判の証拠などです。情報としては、市場認知度、混同の証拠、広告費用、登録商標および使用商標の例などです。異議申立をサポートする証拠書類は、異議申立手続の言語に翻訳する必要があります。
通常、異議申立手続では、異議申立人が提出する異議申立書、これに対する出願人の答弁書、異議申立人の弁駁書の3つの書類が交わされます。場合によっては、さらに多くの書類が交わされることもあります。
異議申立が、登録されて5年以上経過した先行する商標登録を根拠にした場合、出願人は異議申立人に対し、根拠としている登録商標が出願日から5年の間に指定商品または指定役務に関して現に使用されていることの立証を求めることができます。
当該商標が現に使用されていることを証明することができない場合、異議申立理由としては不十分です。異議申立人が、当該商標がその指定商品または指定役務の一部のみに使用されていた場合は、その異議申立に関しては使用されている指定商品または指定役務についてのみその商標は登録されているとみなされます。ただし、不使用について正当な理由がある場合はその限りではありません。
出願人は、答弁書の提出期間内に、異議申立人に対し使用の証拠を提出するよう要求する必要があります。使用の証拠が要求された場合、出願人は、異議申立人が使用の証拠を提出するまで答弁書の提出を遅らせることができます。
出願人は、出願を指定商品または指定役務毎に分割することができます(ただし、期間に限定あり)。その場合、分割した商品または役務同士が重複しないようにしなければなりません。さらに、分割は、異議申立を受けている商品または役務の分割を狙ったものであってはなりません。分割された複数の出願を再度一出願にまとめることはできません。
分割出願にはそれなりの費用を要しますが、指定商品または指定役務の一部のみが異議申立を受けた場合は、異議申立に関係のない商品または役務を分割すれば早期に登録することができます。
出願人はいつでも出願を取下げ、または指定商品または指定役務を削除することができます。取下げまたは削除が、クーリングオフ期間の終了後に行われたときは、EUIPOに当事者間で合意が得られたと通知された場合を除き、出願人は、異議申立手数料と、異議申立人が負担した費用(ただし、EUIPOが決定する範囲内)を負担しなければなりません。EUTMは単一の権利ですから、地域的に分けることはできませんが、特定の国への変更の方法はあります。詳細は下記をご参照ください。
出願人は、EUTM出願(またはEUTM指定)を取下げ、通常の国内出願に変更することができます。マドプロ経由のEUTM出願の場合は、EUTM指定を止めて各EU加盟国を指定することができます(ただし、マルタ共和国はマドプロには加盟していないので除外)。
同様に、出願人が、EUTM出願・指定の指定商品または指定役務を限定した場合は、削除した商品または役務について国内出願に変更することができます。
中断は強制ではなく、EUIPOは、真正かつ適切な理由があったときのみ中断を決定します。異議申立手続が中断するのは、たとえば、以下の場合です。
ⅰ)異議申立が係属中の出願に基づいている場合。ただし、その先行する出願が登録寸前で異議決定前に登録になる状態の場合を除く。
ⅱ)複数の異議申立があったとき。すなわち、複数の異議申立が同じ出願に対しなされた場合、EUIPOは、その内のいくつかを選択的に審査してそれ以外は中断します。
ⅲ)その他の事情、たとえば、
手続中断は、EUIPOが、登録取消の決定を出す可能性が高いときのみに行われます。疑わしい事案についてはすべて、EUIPOは、複数の異議申立に並行して対応します。一旦出願が拒絶されると、中断されていた異議申立は処理されたものとみなされ、手続は終了します。異議申立人が支払った手数料の半額がEUIPOにより返還されます。
異議申立がマドプロ経由のEUTM出願に対するもので、かつ、識別性等の絶対的拒絶理由による拒絶が解消していない場合、異議申立は、その拒絶理由の審査が行われている間中断となります。もし、絶対的拒絶理由が維持されると、異議申立手続は終了し、手数料は返還されます。逆に、絶対的拒絶理由が根拠なしと判断されると、異議申立手続は再開されます。
決定
EUIPOは、通常、異議部の審判官3人の合議体により当事者双方の主張および証拠を審理して決定を下します。原則として、異議申立手続は書面審理であり、決定も書面により行われます。当事者いずれも口頭審理を要求することはできません。口頭審理は、EUIPOがその方が"好都合(expedient)"と判断したときにだけ行われます。理論上は、EUIPOが当事者を召喚して行いますが、私共が把握する限り、実際に行われたことは一度もありません。
費用
原則として敗訴側は、手続に要した費用を負担しなければなりません。異議申立の代理人費用の上限は現在、300ユーロです。
不服の申立
異議の決定に不服がある当事者は、決定書送付から2ヶ月以内に不服の申立ができ、理由書は決定書送付から4ヶ月以内に提出しなければなりません。
異議申立が、EU加盟国の1~2ヶ国のみの先行権に基づき成功することがあります。たとえ異議申立人がより多くのEU加盟国で権利を持っていたとしても、EUIPOは、それらの先行権を考慮する必要はありません。拒絶されたEUTM出願(またはその一部)を、拒絶理由となった先行権のない国において国内出願・指定に変更することができます。
もちろん、異議申立人が異議申立手続では考慮されなかった有効な権利を保有していることが異議申立から明らかであった場合は、出願変更は手続としては可能ですが、いずれ国内の審査で拒絶を受けることになりますから得策とはいえません。
EUIPOの報告によりますと、現在、出願公告されたEUTM出願の約20%は異議申立を受けています。
EU加盟国で商標を現に使用する、または将来使用する予定という当事者は、EUTM出願にするか、またはマドプロ経由でEUTMを指定するか慎重に考える必要があります。さらに、競合する他人の商標がないかを調査して万一の場合は遅滞なく異議申立を行うようにすることが大切です。私共はこのような点で皆様にご協力できれば幸いです。
本インフォメーションシートは、あくまでも異議申立制度の概要であり、法律ならびに実務の決定的なものでない点をご了解ください。
1 以前はOHIMとして知られています
2 以前は欧州共同体商標(CTM)として知られています
This information is simplified and must not be taken as a definitive statement of the law or practice. Please refer to our English-language website for more information.
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