特許とは、新しい発明を保護するための法的権利です。特許の所有者(特許権者)は、特定の国・地域において、その発明を許可なく使用する第三者に対して法的措置を取ることができます。特許の存続期間は、ほとんどの国で最長20年です。特許は、特許権者に自動的に発明を利用する権利を与えるものではありません。特許権者は、他人の権利を侵害しないように注意する必要があります。
かっては、ある国で特許を取得するためには、その国の特許庁に特許出願しなければなりませんでした。欧州全域で発明を保護したければ、各国にそれぞれ特許出願する必要がありました。しかし、1978年以降は、1つの欧州特許出願をすることで、複数の国で効力を持つことができる欧州特許を取得することができるようになりました。
欧州特許は、各国毎に特許出願するのではなく、欧州特許庁(EPO)に出願することができます。欧州特許出願の審査は、各国が独自に行うのではなく、EPOが行います。これにより、特許出願人は、欧州で特許権を取得することが容易且つ安価になります。
EPOが欧州特許出願について特許許可すべきと判断すると、特許が付与されます。その後、欧州特許は、「有効化(validation)」と呼ばれる手続を経て、各国の国内特許権に変換されます。国内特許権は、欧州特許条約(EPC)締約国で取得することができます。EPC締約国には英国、フランス、ドイツが含まれます(本ページ下部に一覧あり)。EPC締約国は欧州連合(EU)の加盟国ばかりではありませんが、現在のEU加盟国はすべてEPC締約国です。
EPC締約国のいずれかまたは全てで保護を受けることができます。一般に、締約国のうち3ヶ国以上で特許保護を受けたい場合、欧州特許の方が個々の国内特許よりも取得費用が安くなります。
2023年以降、新しい単一効特許(European Unitary Patent)が利用できるようになり、従来の欧州特許のように各国の権利の「束」ではなく、一つの特許でEUのほとんどの国を保護できるようになりました。これにより、特許の取得コストが大幅に削減されることが期待されます。
会社も個人の欧州特許出願することができます。いずれの場合も、出願人が特許を受ける権利を有する者であることを確認する必要があります。
出願は、出願人が自身で行うこともでき、また、「欧州特許弁理士」に委任して出願することもできます。「欧州特許弁理士」は、EPOとの対応や出願手続についての経験を有する特別の資格を持った職業的代理人です。
出願人(会社、個人)が、EPC加盟国のいずれにも居所や主たる営業所を有しない場合は、最初の出願書類の提出を除いて、手続全体を欧州特許弁理士によって手続を行わなければなりません。
出願書類の準備
一般的には、発明のプロトタイプや概念実証が完成したら、特許出願を行うべきです。これにより、発明が機能することを確認することができ、また、発明の中核となる機能が、近い将来、さらに発展させても劇的に変化する可能性が低いことを確認することができます。
より複雑な発明、特にライフサイエンスや化学分野の発明については、特許出願を行う前にさらなる作業が必要になる場合があります。
この段階に達したら、弁理士と協力して特許明細書を作成し、発明の内容(明細書)と保護したい内容(クレーム)を記載します。これには通常1ヶ月程度かかりますが、緊急の場合はもっと早く作成することもできます。この書類が完成すると、EPOなどの特許庁に出願することができます。
通常、欧州特許出願は、同じ発明に関する先の特許出願(例えば、先の英国特許出願)から優先権を主張します。優先権を主張するためには、欧州特許出願は、一定の例外を除き、先の出願から12ヶ月以内にしなければなりません。優先権の主張は、先の出願から16ヶ月以内に行わなければなりません。
優先権の主張とは、欧州特許出願が先の特許出願の日に遡及することを意味します。特に、先の出願が発明に関する十分な情報を含んでいる限りにおいて、発明の特許性は、先の出願日における公知の事項に対して判断されます。この日を欧州特許出願の優先日といいます。例えば、優先日を設定するために、発明の開発初期に比較的安価な英国特許出願を行うことができます。この最初の出願の後、欧州特許に投資するかどうかを決定する前に、発明をさらに発展させ、商業的に実行可能かどうかを検討するために1年の猶予があります。
優先権を主張せずに欧州特許出願することも可能です。また、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願を経由して欧州特許出願をすることも可能です。PCT出願については、ここに詳細な説明があります。本ウェブページでは、12ヶ月前に出願された先行特許出願の優先権を主張して欧州特許出願をすることを想定して説明を続けます。
出願から数ヶ月後、EPOの審査官は、本願発明と類似する発明や公開情報を調査します。そして、本願発明と類似する内容の文書をリストアップした調査報告書が送られてきます。
特許が付与されるためには、その発明がすでに公知となっているものと比べて新規でなければなりません。弁理士はこの要件を「新規性」と呼びます。また、発明は自明であってはなりません。発明には「進歩性」がなければなりません。
審査官は、調査報告書の一部として、この基準やその他の規則に基づいて、(特許請求の範囲によって定義される)発明が特許されるかどうかについての意見を記載します。
優先日から約18ヶ月後、EPOは特許出願と調査報告書をウェブサイトで公表します。この時点で、あなたの特許出願と明細書の情報は一般に公開されます。
この公開から6ヶ月以内に、出願を権利化したい場合は審査請求をしなければなりません。この手続の一環として、手数料を納付しなければなりません。
審査官が特許を付与すべきでないと考える理由を述べた場合、EPOに対し、その拒絶理由に反論するための理路整然とした論拠を示さなければなりません。また、審査官の拒絶理由に対応するためにクレームを補正することもできます。弁理士はこの手続を支援することができます。
通常、数ヶ月後(ただし、かなり長くかかる場合もあります)、審査官が応答内容を審査します。審査官が特許付与に同意すれば、出願は特許付与の段階に進みます。そうでない場合、審査官は拒絶理由通知書を作成し、特許が付与されない理由を列挙して送付します。拒絶理由通知書には、特許がまだ付与されない理由が列挙されています。これに対する応答期間は通常4~6ヶ月です。
この手続は、審査官と何度も議論し、出願に変更を加えることにより、何度も繰り返すことができます。
典型的な欧州特許出願の場合、出願から特許査定までに通常3~4年かかります。この間、出願を係属させ続けるために、EPOに毎年「更新料」を納付する必要もあります。
審査官は、最終的に特許出願が認められないと判断することがあります。その場合、審査官はあなたの出願を拒絶します。このような事態になる前に、審査官との口頭審理の機会が与えられます。これが不成功に終わった場合、審判を請求することができます。
特許付与手続の詳細は、ここをご覧ください。以下が概要です。
審査官が特許を許可すると決定した後、EPOから特許付与予告通知書が送付されます。この通知書には、出願人の最終承認を得るための特許出願の全文(テキスト)が含まれています。
テキストに満足したら、EPOに手数料を納付し、特許請求の範囲のフランス語とドイツ語への翻訳を提出しなければなりません(特許出願が英語で行われた場合)。その後、特許が付与されます。
特許が付与されてから3ヶ月以内に、欧州特許の効力が及ぶことを希望する各国に出願しなければなりません。この手続は「有効化」と呼ばれます。国によっては、特許請求の範囲や特許全体をその国の言語に翻訳する必要があります。一般に、有効化する国が多ければ多いほど、その費用は高くなります。
あるいは、2023年6月1日以降、EPOに特許を申請することができるようになりました単一効特許は、(商標や登録意匠と同様の)単一の不可分の権利であり、EU加盟国の一部で効力を持ちます。一般的に、単一効特許は、欧州で特許保護を受けるための費用を削減し、訴訟費用も削減することが期待されています。
ただし、非EU加盟国(英国など)や一部のEU加盟国(スペインやポーランドなど)は、単一効特許には参加していないため、付与された欧州特許は、これらの国において従来の方法で有効化する必要があります。
単一効特許の詳細はここをご覧ください。
従来の欧州特許が付与されると、特許は事実上、別々の国の特許権に分割されます。他の国の特許権に影響を与えることなく、選択した1つまたは複数の国の特許権を失効させることができます。また、EPOへの毎年の更新料の納付ではなく、特許権を有効にした各国の特許庁に個別の更新料を納付することになります。
単一効特許の場合は、引き続きEPOに毎年更新料を支払うことになります。単一効特許の一部の国で権利を失効させることはできません。
特許が付与されてから9ヶ月以内であれば、誰でも異議申立を行い、特許の取消を求めることができます。異議申立についてはここで詳しく説明しています。
一旦欧州特許が付与されると、選択した国において権利行使が可能となります。すなわち、それらの国において特許権者の許可なく特許発明を実施する者は、その特許権を侵害することになります。
現地の弁護士・弁理士に依頼して、自身の発明を使用している者に対して、その発明の実施を中止するよう求めることができ、最終的には、その発明を実施している者に対して、その実施を中止させるために訴訟を起こし、その侵害行為に対する賠償金(法的な「損害賠償金」など)を請求することができます。欧州特許出願について特許許可されるまでは、侵害訴訟を提起することはできません。しかし、特許許可されると、出願が公開された日まで遡って損害賠償を請求できる可能性があります。
従来の欧州特許の場合、権利行使を希望する各国で個別に訴訟を起こす必要がありました。しかし、統一特許裁判所(UPC)の導入により、この状況は変わりつつあります。
UPCは2023年6月1日に審理を開始します。7年間の移行期間(延長の可能性あり)中は、従来の欧州特許に関して、国内裁判所またはUPCのいずれかに訴訟を提起することが可能になります。
この期間が終了すると、UPCに加盟している国に関する欧州特許は、UPCが排他的管轄権を有することになります。
UPCに参加していない国(英国、スペイン、ポーランドなど)については、従来の欧州特許と同様に、各国で個別に訴訟を提起する必要があります。
単一効特許に関する訴訟を審理できるのはUPCのみです。
2022年10月1日現在のEPC締約国
アルバニア |
ルクセンブルグ |
オーストリア |
マルタ |
ベルギー |
モナコ |
ブルガリア |
モンテネグロ |
クロアチア |
オランダ |
キプロス |
北マケドニア |
チェコ共和国 |
ノルウェー |
デンマーク |
ポーランド |
エストニア |
ポルトガル |
フィンランド |
ルーマニア |
フランス |
サンマリノ |
ドイツ |
セルビア |
ギリシャ |
スロバキア |
ハンガリー |
スロベニア |
アイスランド |
スペイン |
アイルランド |
スエーデン |
イタリア |
スイス2 |
ラトビア |
トルコ |
リヒテンシュタイン1 |
英国 |
リトアニア |
|
上記の国全部または一部を欧州特許出願で指定することができます。
下記の国2にも欧州特許権の効力を拡張することができます。詳細はここ。
ボスニア・ヘルツェゴビナ
カンボジア
モロッコ
モルドバ共和国
チュニジア
ジョージア
モルドバは近い将来EPC締約国になると予想されています。
1 スイスとリヒテンシュタインは1指定国と数えられます。
2 これらの拡張国および認証国は、欧州特許出願における指定国のように指定はできませんが、各国の国内法は、欧州特許が付与する権利の自国への拡張および認証について規定を設けています。これらの国について関心がありましたら、ご連絡ください。更なる情報をご提供します。
フローチャート
European Patents - The Basics Flowchart_JP
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